目次
第3話ストーリー
朝、こはるは通学バッグを肩にかけながら、昨日のノートの言葉を思い出していた。
「明日は、“ありがとう”を3回言ってみて。」
 たったそれだけのこと。でも、なんだか“宿題”よりも緊張する。
 お母さんが台所でお弁当を詰めながら言う。
「今日も早めに出るの? 最近、なんか頑張ってるね。」
「うん。……ありがとう。」
 口に出した瞬間、少しだけ照れくさくて、すぐに視線をそらした。
 ——これで1回目。
 通学路で、落ちたプリントを拾ってあげた子がいた。
「ありがとう!」
 その言葉を聞いたとき、胸の奥がじんわり温かくなった。
 自分が言われたわけじゃないのに、どうしてだろう。
 “ありがとう”って、誰が言っても、少しだけ空気がやさしくなる気がした。
 学校に着いて、教室のドアを開ける。
 昨日、校門で会釈をしてくれた佐伯さんがこちらを見た。
「おはよう。……あ、これ、こはるさんのノートじゃない? 昨日机の下に落ちてたの。」
「あ、ありがとう。」
 声が小さく震えた。でも、ちゃんと届いた。
 ——これで3回目。
 放課後。帰り道、オレンジ色の空の下でこはるはポケットからノートを取り出す。
 ページの端が風にめくれ、3枚目の文字が現れる。
「“ありがとう”は魔法の言葉。
それを言うたびに、あなたのまわりの世界が少しずつやわらかくなる。
明日は、“自分”にもありがとうを言ってみて。」
 こはるは深呼吸をして、空を見上げた。
 少しだけ自分の胸に手をあて、つぶやく。
「……ありがとう、私。」
 声に出すと、なぜか涙が出そうになった。
 世界はやっぱり、少しずつ変わっているのかもしれない。
今日のひとこと
「“ありがとう”は、心をやわらかくする魔法の言葉。」
次の課題(ノートより)
明日は、“自分”にもありがとうを言ってみて。

 
			 
			 
			 
			 
			 
			
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