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【ミライノート】第2話「校門の前、1ミリの笑顔」

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第2話ストーリー

 翌朝、私はいつもより5分だけ早く家を出た。
 通学路の途中で、まだ誰もいない道の空気を吸い込む。冷たくて、少しだけ背筋が伸びる。
 ポケットの中では、昨日のノートが軽く折れている。ページの角を指でなぞりながら、昨日の言葉を思い出した。

「校門の前で笑って立つ。それだけで、世界は少し動く。」

 正直、信じているわけじゃない。でも——やってみたい気持ちが、どこかに残っていた。
 校門が見えてくる。大きな門の前で、いつものようにスマホを握りしめる手が汗ばんでいる。
 登校してくる生徒たちは、グループごとに笑いながら通り過ぎていく。私はただ、その横で立っている。
 笑顔……どうやるんだっけ。

 頬の筋肉を、少しだけ上に動かしてみる。
 “1ミリの笑顔”。ほんのそれだけ。
 そのとき、クラスの前の席の女の子——佐伯さん——と目が合った。
 彼女は一瞬驚いたようにして、でもすぐに小さく会釈をした。
 私は反射的に、ぎこちなく頭を下げ返す。
 その瞬間、胸の奥で何かが“ポッ”と灯った。

 たぶん、世界はまだ何も変わっていない。
 でも、私の中の世界が、1ミリだけ動いた気がした。

 放課後、部屋に戻ると、お母さんがリビングで雑誌を開いていた。
「ねえ、こはる。この通信講座、評判いいみたいよ」
 ——こはる。
 名前を呼ばれたのに、私は答えられなかった。
 お母さんの声の奥にある“期待”の重さが、今日はいつもより少しだけ遠くに感じた。
「……今日は、やめとく。ちょっと、自分でやってみたいことがあるの」
 そう言って、自分の部屋に戻る。机の上のノートを開くと、2枚目のページに新しい言葉が浮かんでいた。

「今日、あなたはちゃんとやった。
 明日は、“ありがとう”を3回言ってみて。」

 心臓がドクンと鳴る。
 どうしてノートが、私のことを知っているの——?


今日のひとこと

「1ミリの笑顔が、1人の心を動かすことがある。」

次の課題(ノートより)

明日は“ありがとう”を3回言ってみて。

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